Jul 24, 2015

グラスロッドのプリプレグ



UDグラスのプリプレグ
Unidirectional E Glass and Epoxy Composite 



Sグラスのプリプレグ
Woven S Glass and Epoxy Composite 

今回はちょっと専門的な話になるのですが、
グラスロッドの素材とその構造についてのブログです。




アルケミータックルのグラスロッド "Alchemy Dharma 754 Parabolic" のブランクを作って頂いているテンリュウさんで、グラスロッドの素材を見せて頂きました。

最初の写真に写っている乳白色のシートが、 "Alchemy Dharma 754 Parabolic" に使われているUDグラス(Unidirectional E Glass and Epoxy Composite)のプリプレグ。

2枚目の写真は、現在のグラスロッドに最も多用されている、Sグラス(Woven  S Glass and Epoxy Composite)のプリプレグです。


これら2枚のグラス素材でもっとも大きな差異は、ガラス繊維の種類が違うという以上に、プリプレグを構成している繊維の方向性です。

写真ではわかりにくいのですが、UDグラスのプリプレグシートは、縦方向のグラス繊維だけで構成されています。
Sグラスは、写真でも縦横の繊維が織り込まれた形状になっているのが見て取れると思います。


色の違いは繊維をまとめている樹脂の色の違いで、グラスファイバー(ガラス繊維)自体は両方とも無色の繊維です。


もうひとつ、大きく違うのは、プリプレグ一枚の厚さです。
UDグラスのプリプレグの厚みは、約0.05㎜
対して、Sグラスのプリプレグの厚さは、約0.13㎜
UDグラスのブランクを構成するシートの厚さは、Sグラスのシートの半分以下しかない、ということです。

簡単に説明すると、同じ肉厚のブランクを製作するためには、UDグラスはSグラスの2倍の量を巻き付ける必要があります。
極端に言えば、同じ肉厚のブランクを切断すると、その断面は、それぞれバームクーヘンと海苔巻きの様になっています。

写真を見てもわかるように、UDグラスのプリプレグは非常に薄く、かつ横方向の繊維がないために、ちょっとしたことですぐにヨレてしまいます。
写真にもヨレが写っているのですが、おわかりになるでしょうか。

そのために、UDグラスをブランクにするために、軸となる鉄心、マンドレルに巻き付けることは工程としてより難しく、そのためには、より精度の高い技術と工作機械が必要になるわけですね。

このUDグラスを使うことのメリットは、1枚のシートが薄いので、巻き上げたときの厚さが全周的に均等になりスパインがでにくい。また、縦繊維だけなので、振動の伝達製に優れる、ということでしょう。

これらは素材的な違いで、それ自体に優劣はありませんし、これらの素材をロッド(ブランク)にした場合の優劣にも直接関係はないのです。
それぞれに用途や目的に応じた最適な使い方があって、それを引き出すのが、ブランクを作るメーカーの技術です。


"Alchemy Dharma 754 Parabolic" のブランクを試作するときには、このUDグラスと普通のEグラスとで試作ロッドを作り、いろいろなテストをした結果、最終的に、このUDグラスのブランクを採用することになりました。

いちばんの違いは、グラスロッドなのにUDグラスのブランクは感度がいい、ということです。
フライラインの感触を、ダイレクトに手に伝えてくるので、ラインのコントロールがしやすくなります。
そして、魚を掛けたとき、その動きや、魚が頭を振る様子もダイレクトに伝わります。

素材に適度な、硬すぎない弾性があるのでフックを弾きにくく、掛けた魚がバレにくい、というオマケも付いてきます。

また、素材が薄いので、副次的にですが、ブランクの肉厚を微妙に変化させることが可能になり、細やかなアクション調節ができたようです。


もういちど書きますが、素材自他に優劣はありません。
完成したブランクが素晴らしいロッドになるか、それとも、どこかイマイチなものになるのかは、その素材を使いこなす設計ができる、ブランク設計者の優れた能力と、
その設計されたブランクを量産する工作機械の精度、そしてその機械を扱う、職人さんの熟練した技術がすべてなのです。

優秀な設計者がいなくては、どんなアイディアもカタチにはなりません。
そして、どんなに優れた設計図があったとしても、現場でそれを物として作り上げる精度の高い機械と、それを扱う技術者がいないと、設計通りの完成品にはなりません。

この両者を持っているのが、テンリュウというロッドメーカーなのです。


部外者には非公開であるテンリュウさんのロッド工場を見学させて頂いて、私がいちばん驚いたことは、工場内の各セクションで働く人の多さでした。

これだけ多くの人が、ロッドの製作に係わってるのだ、ということは、ある種の感動でもありました。
そして、これだけのマンパワーが必要な製造現場が、国内にまだあるのだ、ということにも驚きました。

そして、国内工場での生産だからこそ、あの素晴らしいフィーリングを持ったブランクを産み出すことができ、同じ物を再現できる量産精度が出るのだ、ということも理解できました。


テンリュウの会長さんと、設計の三井さん
"Alchemy Dharma 754 Parabolic"のテスト中

テンリュウの会長さんからは長時間にわたって、
この国における釣りの戦後史、ともいえるステキなお話を聞かせて頂きました。
機会があればぜひ書きたいな、と思っています。








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