Jan 31, 2019

Orvis Graphite Rods (Orvis Super Fine Graphite Rods)




Orvis Graphite Rods

といってもこのシリーズはオービス社で最も最初に作られたグラファイトロッドのシリーズで、素材は1970年代から変わらないレギュラーグラファイト(標準弾性24トンカーボン)が使われています。



時代によってデザインがマイナーチェンジされてきましたが、基本的にはバンブーロッド時代からの伝統的なオービスのフルフレックス・アクションを継承しています。





いちばん上のロッドは‘70年代半ばから’80年代初期のタイプ。
2番目の竿がブランクにフレックスレートが書かれて、オス側のジョイントがツルッとした最終型。

最初の頃はオービス社内でブランクまで作っていたのですが、途中からはよくわかりません。個人的にはブランクは外注、もしかするとロッドビルドまでも外注に変わったかもしれないと考えていますが、ロッドのアクション自体は初期から末期までほとんど変わっていないと思います。なかには「アルミ無垢のロッドチューブに赤いラベルの初期型でないと」といわれる方もいらっしゃいますが、コレクションとしてならともかく、釣りに使うにはほぼ同じではなかと思います。

ただ、僕の経験ではごく初期の物(同社のバンブーより高価でしたから気合いが入っていたのでしょうね)以降のロッドには魚を寄せるときに胴ブレがするものがたまにあるので組み立ての精度やブランクの検品基準が落ちたという可能性は考えることができます。




実は、このシリーズのロッドが凄くいいんですね。もう最近のグラファイトロッドはいらないんじゃないかっていうぐらい使い勝手がいい。
もちろん限界的な性能では、データ的には最新のロッドとは比較にならないとは思います。
ただ、いつもの釣りにそんな限界性能を使う場面なんてそうそうないんですよ、まあ、僕の場合はですけどね。
そうすると、性能的にはちょっと「ゆるめ」のロッドの方が気持ちよく使えるのです。

この種のロッドはそんなに軽くもなく、反発力が強いわけでもありません。
でも、ちょっとしたことでは折れたりしない丈夫さがあります。
その理由は、いわゆるローモデュラスグラファイトが使われているのでグラファイト繊維の反発力がイマドキのハイモデュラス素材とは違いそれほど強くないのでブランクの肉厚があるからです。

もうひとつの特徴は、最近の大半のロッドとは違ってロッド全体が曲がります。
これがいいんですね。
このシリーズのロッドをロッドに記入された指定番手で使うと、まあ別にどうということのない普通の釣竿です。
でも、メーカーの指定番手より1番から2番ほど重いラインを使うとまったく別物に変化するのです。
そう、まるでよくできたバンブーロッドやグラスロッドのようにスロースピードのラインをきれいに最後までコントロールできるのです。
素材の硬さが、フライロッドとしてのツボに入っているのだと思います。

こういう使い方に気づいている人はあまりいないとは思いますが(業界の人は知っていても、売り物がないので話さないでしょうしね)この能力は凄いですよ。
いまなら2万円も出せばネットオークションで手に入りますからね。
僕もロッドメーカーなので、この市場価格はちょっと反則だとは思いますが・・・

ただ、このシリーズ、時の流れのなかでかなりモデルの数が増えたのですが、そのどれもが最高というわけでもないのです。
先調子のものでもない限り、極端なハズレはないですけどね。

自社でグラファイトロッドを創るときには、そのベースにしたいロッドです。
ぶっちゃけ、お金があれば市場に出ているロッドは全部買い占めたいぐらいですね。



Jan 11, 2019

ロッドブランクは真っ直ぐなのか・・・?

軽いラインを使うしなやかなフライロッドを作るようになって、どうしても気にかかることがありました。
それはメーカーから届くブランクがまっすぐではなく曲がってるということです。

写真に撮るとこんな感じです。
ガイドを巻いてロッドに仕立てると、気にならないとは思うのですが・・・
曲がってると言えば、確かに先端部の細いところが曲がっていますね。




僕自身は長年バンブーロッドや竹竿を使っていたのでロッドの多少の曲がりは気にならない、というよりも、竿なんて曲がってるものだろう、それがどうした、なんて思っている方なのでまったく気にしていなかったのですが、
そのブランクを買って頂いたお客様から
「ブランクが曲がっているので交換して欲しい」
というクレームが来るんですよね。

で、在庫しているブランクを見てみると今回発注したブランクには本当に真っ直ぐなモノなんて一本もありません。
さすがに気になったのでメーカーサイドに問い合わせてみると、これでメーカーとしての検品は通っているとのことでした。

それには理由がありました。
グラスロッドのブランクはマンドレルという芯金に樹脂を含浸させたガラス繊維のシートを巻き付け、それを炉で過熱して樹脂を硬化させて作ります。
そして樹脂の硬化後に中心にあるマンドレルを抜いて中空のブランクにするわけですが、その焼成されたブランクが常温にまで冷める過程で収縮するので、どうしてもブランク内部で引っ張り合いが生じて曲がるわけです。

前回発注したブランクは#4~5ライン用のブランクだったので、ブランクを巻くマンドレル(芯金)の直径も大きくグラス素材のブランク肉厚もそれなりにあるわけです。
ところが今回製作をお願いしたブランクは#0~3番ライン用のショートロッドなので、マンドレルは細くそこに巻き付けるグラスブランクも非常に薄いものなのです。
直径が大きくて肉厚なブランクはその冷却過程での引っ張り合いがわりと均等になるのでそれほどの曲がりは生じないのですが、細くて薄いブランクはそれゆえにどうしても曲がりが出てしまうのです。

もちろん、なかには限り無く真っ直ぐに近いという優秀なブランクも混じってはいるのですが、それだけを生かして残りを廃棄するとブランクのコストがとんでもなく高価になってしまいます。ブランク1本に10万も20万も出す人はおそらくいらっしゃらないでしょう。
そんなわけで、メーカーが検品の上出荷したブランクですので多少の曲がりに拘らずにすべて製品にすることにしました。

ここでちょっとした裏話なのですが、大きなメーカーで製作しているロッドはこのブランクの曲がりをわかりにくくするためにスパインを考慮することなしにガイド位置で誤魔化している場合が多いのです。
ブランクが曲がっている方にガイドを並べるとガイドの重さでロッドが曲がっているように見えますからね。

うちの場合はスパインを優先して組み立てるので、曲がりは放置したままです。
特別な料金を2~30万円ほど頂ければ真っ直ぐなブランクをお出ししてもいいのですが、そうなると残りのブランクは売るわけにもいかず廃棄ということになりますよね。
それはどうなんだろうとかなり悩むところなので、買って頂いたお客様におまけとして差し上げることになると思うのですが、考えるのもめんどくさいのでそんなお客様はいないということにしておきます(笑)

このブランクの曲がりにはロッドメーカーもいろいろと対策を考えていたようで、たとえばカスタムロッドの大家である、あのラス・ピークは電熱球を使ってブランクを暖めて曲がりを修正していました。その写真が残っています。
他にもヘアードライヤーを使って暖めて曲がりを直すことも可能ですし、そうされているビルダーさんがいるのも承知しています。

ただ、ロッドブランクに使われている熱硬化エポキシ樹脂を再度暖めて柔らかくして曲げ直すことがロッドにとっていいことなのかどうかには疑問もあります。
このブランクを製作して頂いているメーカーの技術者さんは、強度の問題からそれにはあまり賛成できないようです。
また、夏の高温になった車内にロッドを放置していたらどうなるのだろうという疑問もありますしね。

そんなわけで、ブランクがすこしは曲がっていてもご了承頂きたい、というお話でした。